日中朝韓歴史文学中心(センター)

 

 

  橋下徹大阪府知事は、朝鮮学校児童生徒に対する

 差別迫害暴言と施策を直ちにやめてください。


  大阪府外国人学校振興補助金、授業料支援補助金(私立高校等授業料軽減補助金)制度からの朝鮮学校児童生徒のみの除外に対する抗議文

 新聞報道によると、橋下知事は本年1月28日に府庁で記者団の取材に答えて、大阪府の2011年度当初予算案に朝鮮学校への補助金の計上を見送る方針を明らかにし、その理由として、補助を継続するため学校側に求めた四条件に、どのように対応するかの回答がないことをあげ、「回答をもらえないので、仕方がない」と言い、さらに3月初めには「回答が不十分」だとして、以後その方針を維持しているとのことです。

 経過をたどって、橋下知事の発言と大阪府の行為を確認してみます。

 今回の問題は、昨年来国政での高校無償化制度創設に当たって、朝鮮学校の生徒を除外すべきだという意見が出ている問題と関連して、橋下知事が2010年3月3日、大阪朝鮮高級学校を視察する考えを示し、同校の実態を確認したうえで、4月からの府独自の授業料助成の対象とするかどうかを決める意向を示したことから始まりました。

 新聞報道によると、その際知事は報道陣に「権力者が授業内容を評価しちゃいけない。そういう視点ではなく、拉致問題を引き起こした北朝鮮と学校の関係性を見る」、また、「北朝鮮という国と暴力団は基本的には一緒。暴力団とお付き合いのある学校に助成がいくのがいいのか」「不法国家の北朝鮮と結びついている朝鮮総連に朝鮮学校が関係しているなら、税金は入れられない」と語り、さらにまた3月10日には「政治と教育が区分けされているか確認する」「朝鮮総連との今後のかかわりについて宣誓書をとるのかもポイント」「不法な国家体制とつきあいがあるなら、僕は子どもたちを取り戻し、ちゃんと正常な学校で学ばせる。そうしないと朝鮮の皆さんに対する根深い差別意識が大阪府からなくならない」と語ったということです。

 府人権室によると、知事は就任直後の2008年5月に在日本朝鮮人総連合会大阪府本部の幹部の訪問を受け、府内朝鮮学校の視察を求められ、その時は知事が断っています。(理由は知事が府本部幹部に「拉致問題の解決に向けて、大阪府と共同のメッセージを本国に発してほしい」という趣旨の要請をして受け入れられなかったからだそうです。)

 こうして、2010年3月12日に橋下知事は初めて大阪朝鮮高級学校を視察、学校法人理事長や学校長に、府独自の補助金を出す条件として、在日本朝鮮人総連合会との関係を絶つことや、北朝鮮の指導者を崇拝するような教育をしないことなどを要望、総連からの寄付を受けない、朝鮮総連の行事に学校幹部が参加しない、大阪朝鮮高級学校の教室の黒板の上に掲げられた故・金日成(キム・イルソン)主席らの肖像画を外す、などを求めたとのことです。この知事の視察訪問は、ある新聞報道では「府は同月、朝鮮学校の教育内容を調査し」とされており、ラグビー部との交流など表面のなごやかさとは裏腹に、知事の陣頭指揮による府行政の学校への直接介入調査であったことがわかります。その際一方的に(1)日本の学習指導要領に準じた教育活動を行う(2)財務情報の一般公開(3)朝鮮総連と一線を画す(4)金総書記らの肖像画を教室から外す−の4つを条件として提示し、10校を運営する学校法人に受け入れるか、回答するよう求めていたのです。

 さらに、知事は有識者会議を設置して、2010年9月、「現代朝鮮史」を教科ではなく特別活動と位置づけることや、特定の政治指導者に対する敬称について考慮することなど、13項目を提言させ、こうした条件を合理化しました。

 この四条件を理由に、府は、今年度も補助留保を継続する、というのです。

 

(1)知事が「学校側に求めた四条件」を勝手に「朝鮮学校への補助金計上」の条件とすることは公序良俗に反する不法行為です。

 自分が勝手に言っておいて、答えがないから、不十分だから仕方がないというのは、反社会的団体や悪徳代言人が弱者を脅す手口、あるいは大向こうの受けをねらうお笑いでしかありません。経過からわかるように、知事は最初から準備して、「権力者が授業内容を評価しちゃいけない」と知りつつ、四条件にもとづいて授業内容に介入しています。

 権力を持つ者が、表面上「条件」や「約束」と言いながら、札束を手に、力を持たない者に対して「しちゃいけない」という実質的な不法行為をする、これを「公序良俗に反する」と言います。大阪府は、知事自身が「各種学校に学習指導要領準拠の教育を指導する」「各種学校の教室内の装備・装飾・掲示物について一つ一つ指示する」法律上の根拠を示すべきです。そうでなければ、有識者会議などというごまかしではなく、府議会での政治的動向を隠れ蓑にするのではなく、それを可能にする条例を作ってからにしてください。従来ともすれば官僚によって行われがちであった無責任な行政処理や介入、窓口指導、府議会政治勢力による教育介入と同様のことを、知事自身がやってどうするのですか。

 条件のうちの「財務情報の公開」についても「学校法人」の当然の法理に従って、他の「学校法人」と同様に処理されるべき問題です。

 

(2)知事が自分の政治思想からする「北朝鮮との関係」を理由に朝鮮学校への補助金計上・授業料支援補助金を留保することは、権力者による朝鮮学校児童生徒を狙った行政的迫害、攻撃です。

 2002年、朝鮮学校や通学する児童生徒へのいやがらせ、攻撃が多発しました。それだけではありません。府立学校に通う韓国籍生徒の家庭にも脅迫状が送られてきて、外交問題の意趣返しに子どもを狙うという行為が大阪府下でも各地で起こりました。「拉致問題」と子どもに何の関係があるのだと、当時大阪府の教育関係者なら誰でも悔しく思ったものです。

 ところが今度は大阪府知事が、朝鮮学校や通学する児童生徒へのいやがらせ、攻撃をしかけています。しかも知事は、「朝鮮の皆さんに対する根深い差別意識が大阪府からなくならない」のは、「北朝鮮と朝鮮総連」のせいだと言うのです。これは、桶屋がもうかるのは風が吹くから、被差別部落の人が差別を受けるのは差別反対と騒ぐ部落民が悪い、黒人が差別を受けるのは黒いからだ、などと言うのと同様に、「差別の原因が差別される側にある」と言うお笑い、デマゴギーです。朝鮮人に対する差別意識がなくならないのは、かつて日本帝国が朝鮮を植民地支配して、日本人が支配者であり、朝鮮人は支配される者であったという歴史的過去のためだということを、知事が知らないはずはありませんね。「北朝鮮と朝鮮総連」がなくなれば、大阪府民の「朝鮮の皆さん」に対する差別意識がなくなる、裏を返せば、「北朝鮮と朝鮮総連」がなくならないのだから、大阪府民の「朝鮮の皆さん」に対する差別意識は当然だ、というこの新説をぜひ世界に向けて吹聴してみてください。

 このことは、朝鮮学校や通学する児童生徒に対する差別迫害を、知事がデマにもとづいて府民に指嗾扇動していることを意味します。ネット右翼と同様の意識で、子どもを外交問題解決の人質にとる卑劣な嫌がらせをして、大阪府民(さまざまな外国人、もちろん朝鮮籍の人も含む)の中に行政がいじめや迫害による対立を持ち込んでどうするのですか。

 

(3)どれだけ「北朝鮮」が嫌いな知事も、最低限の国際常識や日本国の法的立場を無視して「北朝鮮」の悪口を言うことは自重すべきです。悪口雑言との連想ゲームで朝鮮学校に通学する大阪府民を差別迫害してはいけません。

 経過から、橋下知事の差別迫害施策の根本理由が、「拉致問題を引き起こした北朝鮮と学校の関係」にあることがわかります。しかし、「暴力団と一緒」「不法国家」などと知事が放言して平気なのは、日本国が朝鮮民主主義人民共和国といまだに国交を結んでいないからにすぎません。従って、向こうに知事同様の人がいるとすれば、こちらが「暴力団と一緒」「不法国家」です。また例えば、イラク戦争開戦時の振る舞いを見れば、アメリカ合衆国が「暴力団と一緒」「不法国家」なのは世界の常識でしょう。知事がそう放言しないのは、アメリカ合衆国が強大な力を持ち、日本国がその国と国交、軍事同盟を結んでいるからにすぎません。知事たる者が「政治と教育を区分け」しなくてどうするのですか。日本国内の法制度や意識だけでなく、こうした相互の感覚を持てるかどうかが、国際感覚の基本です。

 また、国際連合加盟国192のうち日本国が国交を結んでいる国が190、あとの二つが日本国自身と朝鮮民主主義人民共和国であるという異常な事態がなぜ存在するのか。1992年の小泉首相の平壌での「日朝共同宣言」に際して「拉致問題」が明らかになったからでしょうか。違うでしょう。日本帝国が1910年に「韓国併合条約」で朝鮮を植民地支配して以来、ポツダム宣言を受諾して朝鮮が解放され日本帝国が連合国軍の占領下に入って以来、今日までずっと、朝鮮半島の北半分は日本帝国が支配してやがて手放した土地であり、そこに成立した朝鮮民主主義人民共和国を日本国は一貫して無視し、ないものと見なしてきたのです。過去の日本帝国による植民地支配は、まだ清算が済んでいません。こうした歴史意識をもてるかどうかが、国際感覚のもう一つの基本です。

 「国交」があれば、たとえば2001年2月のハワイ・オアフ島沖で、愛媛県立宇和島水産高校の実習船「えひめ丸」が米原子力潜水艦に衝突され9人が犠牲になった事件についても、外交関係に即して解決は可能でした。「拉致問題」についても同様でしょう。それほど気になるのなら、知事自身が検察庁へ思うまま告発すればよいのです。もし刑事上の責任があるのなら、大阪府公務員に刑事事件の当事者が出たときと同様、当該団体も相応の処置をするでしょうが、「関係」があると疑って一方的に不利益を強いることは、憲法の下での法治主義に反します。これれでは、非合法団体との関連容疑で三木清を逮捕し「一億総懺悔」と言いつつ獄中死させた時代の為政者と同じではありませんか。

 さらに、自分の国がその国を「国家」として認めてもいないのに「不法国家」と悪口を言うのは、婚姻関係がない相手に「夫としてだめ」「妻として失格」と公言するようなもので、叩き出されるべきなのはそんな悪口を言った方でしょう。国がいまだに解決できていない問題の矛盾を、少しでもその傷をカバーするよう努力するのが、地方自治の趣旨からも「住民によって」選ばれる府知事のなすべきことではないでしょうか。

 まして、朝鮮学校の児童生徒は韓国籍、朝鮮籍、日本籍の子どもたち(二重国籍の子も当然)を含み、朝鮮総連の構成員も同様です。朝鮮籍の人は、朝鮮民主主義人民共和国を支持しているからそうなのではなくて、日本国が日本帝国の朝鮮植民地支配を清算できていないからそうなのです(1947年に日本帝国最後の勅令によって最初誰が朝鮮籍とされたのかを考えればわかります)。日本国の法制度上は「朝鮮民主主義人民共和国公民」は存在しないのですから、「北朝鮮」がどうだからと言ってそれを理由にするのは日本の行政担当者の立場からは全くの無意味、あるいはデマゴギー、法律規範を無視し人の心の中にもとづいて―お前は「北朝鮮」を支持しているから―差別迫害を加えるという無法行為にほかなりません。日本国憲法施行以前や連合軍占領下の団体等規正令の時代に、勝手に戻ってはいけません。

 在日朝鮮人が、自分は朝鮮民主主義人民共和国を支持する、あるいは自分が同国公民であると意識する自由は当然あります。だからといって、日本の行政がそれにもとづいて差別迫害するのは、法治主義を自ら否定しているようなものです。

 

(4)ある子どもが母語―在日朝鮮人の場合には「継承語」と言うのが正確―や母文化にもとづいて教育を受ける権利が、保障されなければならない重要な子どもの権利であることは国際人権法上の常識です。こうした国際常識を無視して大阪府民の子どもの権利を踏みにじってはいけません。

 「僕は子どもたちを取り戻し、ちゃんと正常な学校で学ばせる」と知事が言うのなら、せめて先に朝鮮語を「国語」とする大阪府立朝鮮学校を府下各地に作ってからにしてほしいものです。学習指導要領適用の例外に関わる教育特区を申請すればよろしい。

 1948年4月、神戸市で非常事態が宣言され、大阪府庁前で金太一(キム・テイル)少年が警官隊に射殺される―その妹さんは府下に健在です―事態の中で、翌年には朝鮮学校は次々と閉鎖され、当時はまだ日本国籍であった朝鮮人の子どもたちは、自分たちの学校から放り出されて法制度上は日本の学校に行くことになっても、実態は街角にあふれてたむろしていました。東京都立朝鮮人学校や、大阪市立西今里中学校(朝鮮人中学校、教育行政上はじめは本庄中学校分校)がそこから生まれました。私たちの先輩もそこで朝鮮人と並んで教壇に立っていました。現在ある朝鮮学校は、そこから、全くのゼロから、外国人として(1952年に日本国籍がなくなった)の朝鮮人自身の手で作り出されてきたものです。今日では、朝鮮学校のバイリンガル教育の成果は、韓国でも高く評価されるようになっています。知事は、姑息な「調査」としてではなく、韓国に行かなくても朝鮮学校で、そうした成果を視察することができたのに残念なことです。

 その後1952年、今度は反対に朝鮮人の子どもが公立学校に入学する法的根拠が消滅し、公立学校では入学時に特別に誓約書を書かせたり、府立高校入学時の学力検査では特別に成績の良い者だけを合格させるなど、大阪府の公立学校が朝鮮人の子どもを差別し放題にした時期が続きました。1965年の日韓基本条約と1969年前後の部落解放運動進展の中で、ようやくそうした状況の改善が始まったのです。

 知事が朝鮮学校を差別迫害する発想は、かつて1948年の連合国軍や日本政府と似ています。しかも当時在日朝鮮人は日本国籍でしたから、少なくとも形式上はその施策は合法的(現代の国際人権法の観点からは、「少数民族」の教育権侵害として違法でしょうが)でしたし、また、朝鮮人の子どもが日本の学校に押し寄せて対応しきれないからという対処療法ではあっても、その教育の受け皿を行政(赤間文三大阪府知事)もそれなりに考えたのでした。ところがその同じことを、今回大阪府知事は外国人の子どもに対して行おう、しかも新しい何の受け皿も用意せずに行おうと言うのです。これは府民税負担者の子どもの教育権を迫害する無法な権利侵害行為にほかなりません。

 

 以上、橋下徹大阪府知事が朝鮮学校児童生徒に対する差別迫害暴言と施策を直ちにやめて、朝鮮学校に対する大阪府外国人学校振興補助金を予算計上し、授業料支援補助金(私立高校等授業料軽減補助金)制度で朝鮮学校児童生徒を除外しないよう、要請するものです。一部新聞報道や知事周辺からの伝聞によると、知事は「本心は朝鮮学校への補助金を出したい」のだということです。そうであってほしいと願います。しかし反面よく考えてみれば、これは「言うことを聞け、ほんとうは殺したくない」という反社会的団体やテロリストの言い方にも似ていて、「暴力団と一緒」なのは一体どちらなのかと疑問も湧いてきてしまいます。悪党が天に向かって唾を吐くのでないことを切に祈ります。

 

*引用した新聞記事は朝日、毎日、読売、産経、時事通信のものです。ネット上ですぐ検索できる周知のものなので、いちいちの注記は省略しました。

 

                                  2011年4月24日              印藤和寛(日中朝韓歴史文学センター)

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