21世紀のお父さん、お母さんになる若い世代の方へ

出生前診断について考ましょう

 はじめに

 貴方は、現在恋人はいますか?  きっとすばらしい恋人が・・・・・・
恋人がいない貴方も互いに愛し合い尊重できる異性が必ず現れます! そして近い将来幸福な結婚を胸
に抱いて夢を実現し、幸せな結婚生活を営むことでしょう。 その愛情の結果、やがて赤ちゃんが生まれ、
そして自分達が父親や母親になります。そうです正に幸せの絶頂です! 希望に満ちあふれ貴方がたの
親としての自覚が芽生えることでしょう。
 ところが、世間では「五体満足で元気な赤ちゃん」を期待する傾向があります。それでは「五体満足では
ない赤ちゃん」や「元気でない赤ちゃん」が生まれたら、それは不幸で悲しむべきことなのしょうか。
 たとえ貴方自身や、配偶者や、家族・親族に障害がなくても、障害を持った赤ちゃんが生まれてくる可
能性は、誰にでもあるのです。
 どうして障害を持つ赤ちゃんは、祝福されないことが多いのでしょう。障害を持つ人は不幸な存在なので
しょうか。そして、その親になることは不幸なことなのでしょうか。「出生前診断」を通してこの問題を考えて
見ようではありませんか。

(1)出生前診断とはなにか

 赤ちゃんに障害や病気があるかどうか、出産をする前に検査し診断することを「出生前診断」と呼んでい
ます。本来、障害や病気を早期に知り、治療するためのものですが、非常に悲しいことに生命の選別に使
われている場合もあります。
 出生前診断には、いくつかの方法があります。

 1.羊水検査
    妊婦のおなかに針を突き刺し、羊水を採ります。その中にあ る胎児の細胞を調べる検査です。
    染色体の大きな異常に限って言えば、診断の結果は、ほぼ正確です。しかし、遺伝子の小さな異
    常は、現在の技術ではわからないことが多いので、障害のあるなしの全部がわかるわけではあり
    ません。また、胎児を傷つけたり、流産を 引き起こす危険も皆無ではありません。
 2.絨毛(じゅうもう)検査
     妊婦の胎盤の絨毛を採取し、その細胞を調べます。絨毛の細胞は胎児の細胞なのです。羊水検
    査と同じように染色体や遺伝子の異常、代謝病の診断ができます。だだし、この方法も流産を引き
    起こす可能性があります。
 3.超音波診断
    妊婦のおなかを超音波で調べます。胎児に外見的な奇形があるかどうかだけがわかります。
 4.母体血清マーカーテスト
 5.着床前診断
    4、5については、後の項目で説明します。

 このうち現在急速に普及しているのが「母体血清マーカーテスト」のひとつ「トリプルマーカーテスト」で、
母体の血清に含まれる3種類のタンパク質の濃度を調べるものです。
 妊婦から採血するだけで簡単にでき、ダウン症(知的障害をともなう染色体異常)や二分脊椎症(脊椎の
異常による身体障害)などの赤ちゃんが生まれる可能性が確率で出てきます。確率が高い場合は「陽性」、
確率が低い場合は「陰性」の判定が出されます。
 しかし、「陽性」の判定があっても99パーセント以上の胎児には障害がないので、確定するには、さらに
羊水検査を受けなければなりません。また、確率のことですから、この検査で「陰性」と判定されても、障
害児が生まれる場合があります。しかも、この検査でわかる障害はごく限定されたもので、すべての障害
がわかるわけではありません。

(2)トリプルマーカーテストの問題点

 トリプルマーカーテストを受けるかどうかは個人の判断に任されています。「陽性」が出た場合、羊水検
査を受けるかどうかも個人の判断です。障害がわかった場合、中絶するかどうかも個人の判断です。
しかしダウン症や二分脊椎症が、どのような障害で、その子たちがどんな成長をし、その家族がどんな生
活をしているのか、何の情報も与えられなければ、個人が正しく判断することはできません。
 また母親は、「健康な子どもを産んでほしい」という周囲の圧力を受けている場合が多く、本当に自由に
自分の意志を表明しにくい立場にあります。「陽性」の判定を受けた母親は例外なく悩み苦しみます。母
親になるという喜びは消え、大きなストレスにさいなまれます。このような母親に対するカウンセリング体
制も日本では不十分です。

 一方、トリプルマーカーテストを「障害者のいない社会」をつくるため推進し、妊婦全員に受けさせようと
いう意見があります。障害を持つことは不幸であり、そのような人をできるだけなくそうとする考えが根底
にあるようです。また、障害者は社会の役に立たないのにお金だけ食うお荷物のような存在だ、だから社
会全体の費用節約のためにも出生前診断を推進しようと考える人もいるようです。
 障害者やその家族はほんとうに不幸な存在なのでしょうか。障害者にあまり親密に接したことのない人
が、そのように推測しているだけではないのでしょうか。障害児・者を抱えた家族の方々もとても幸せな人
生を歩んでいる場合が少なくないのです。
そもそも「障害があるから中絶する」というのは、現在生きている障害者の存在まで否定することになら
ないでしょうか。

(3)胎児条項について

 日本には母体保護法という法律があります。
 この法律では、おなかの赤ちゃんを中絶することができるのは、次の二つの場合に限るとしています。
 1.妊娠を継続することが、身体的または経済的理由で、母親の健 康を著しく害するおそれがある場
   合。
 2.暴行や、脅迫などによって妊娠した場合。

 ところが、ここに「胎児に重い障害や病気がある場合」という項目を付け加えるべきだとする意見があ
ります。この項目を「胎児条項」と呼んでいます。
 このような意見を持つ人の中には、今は違法なのですが、胎児が母体から離れて生きていけるくらい
大きくなっても、障害があるなら中絶は認めるべきだと考える人もいます。
 もしこのような項目が母体保護法に加われば、障害のある赤ちゃんを中絶することは国家の公認とい
うことになります。
 そうなれば、障害のある子を生んだ母親は周囲から非難され、障害者に対する差別もますますひどく
なる、そんな社会にならないでしょうか。

 ナチス時代のドイツでは、「民族のため優秀な子孫を残す」という優性思想が国家の政策に反映されま
した。精神障害者、知的障害者、非行少年、アルコール中毒患者など20万人以上が「生きるに値しない」
と抹殺されたそうです。虐殺の行われたある精神病院には、現在「人間よ、人間に敬意を!」と刻まれた
記念碑が建てられています。

(4)着床前診断について

 人工授精は、体外で卵子を受精させ、受精卵を母親の子宮にもどす方法で、それにより、多くの子ども
のできない夫婦に赤ちゃんが生まれてきました。
 卵割を始めた受精卵を子宮にもどす前に、その細胞を一つ取り出し、染色体やDNAを検査し、障害や
病気を見つけようとするのが着床前診断です。
 
 日本産科婦人科学会は、1998年6月、次の三条件をつけて、着床前診断を認めることを決めました。
 1.重い遺伝病の可能性がある場合に限定する
 2.事前に学会で審査する
 3.両親の同意を得る
 この、「重い遺伝病」とは、現在、筋ジストロフィーの進行の早い型などが想定されているようです。

 ところで、「重い遺伝病」とそうでない病気や障害との間に線を引くことが果たしてできるのでしょうか。
 着床前診断は歯止めがなくなれば、「重い遺伝病」だけでなく、将来発生するガンなどその他の病気
の発見、男女の産み分けにまで利用されるおそれがあります。
 受精卵の廃棄は、中絶する場合より心の痛みを伴いにくいものです。いくつかの受精卵の中から、一
番問題のない受精卵を選び、母体にもどすということも行われるようになるかも知れません。それにつ
いて、皆さんはどう思いますか。

(5)生命の選別について考えよう

 知能優秀、容姿端麗、スポーツ万能、しかも健康にも全く心配がないパーフェクトな子どもを求め、生
まれようとする生命に○×をつける。もし、そんなことに出生前診断が利用されるようになれば、どんな
社会になるでしょう。
 それに、どこから見てもパーフェクトな子どもなど、はたしてこの世に存在するのでしょうか。
 障害を持っていても、精一杯、自分の人生を楽しんでいる人は大勢います。いろんな人がいて、人間
社会は成り立っているのではないでしょうか。

 人間が人間の生命を選別するということは、どういうことでしょう。それは人類の未来を明るくするので
しょうか。それとも差別を拡大し人類に新たな大きな不幸をもたらすのでしょうか。

 21世紀の父親、母親になっていくであろう皆さんにとって、出生前診断の問題は、避けて通ることがで
きません。限りなく進歩を続ける科学技術は、ついに私たちに「生命の選択の是非」という大きな難問を
突きつけました。
この問題に対する正しい答えはないのかも知れません。でも、一人一人が考え、自分なりの答えを見
つけておくことは、とても大事なことです。

  考えよう、自分の心で。
 生まれ来る生命について!
 未来の社会を築くために・・・・・
 今、真剣に考えて見ませんか。
 
是非、ご意見、ご感想をお寄せください。
         sagami@wombat.zaq.ne.jp
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